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【書評】『高層建築物の世界史』ピラミッドから東京スカイツリーまで

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高層建築物の世界史

高層建築物の乱立はつい最近のお話

高層建築物はみる人を魅了する。都内であれば、高いビルに登ると、東京タワーや東京スカイツリーをついつい探してしまう。

我々は高層建築物に囲まれて過ごしているので、慣れてしまっているが、高層建築物のある風景ができたのはここ数十年の話である。

一九七〇年まで、原則三一メートルに制限されていたので、超高層建築物が乱立するようなことはなかったのだ。

しかし、高層建築物自体は古代から存在してきた。

本書では、以下三点を追いかけてく。

  1. どのように高層建築物をつくってきたのか?
  2. 高層建築物の目的はなんだったのか?
  3. 建物が与えた街並みへの影響

高層建築物の歴史を一気に読む!

本書は世界の高層建築物の歴史を六つに区分し、古代から現代まで通史的な流れで概観できる作品である。

第一章の「神々をまつる巨大建造物」では、エジプトのピラミッドをはじめとする巨大建造物をみていく。

安定的な農作物の収穫が都市を支え、自然災害が都市を脅かした。

そこで、神への祈りこそが農作物の豊穣を約束すると信じられ、宗教儀礼を行う施設として巨大建造物は造られた。

第二章の「塔の時代」では、舞台は中東からヨーロッパへと移動する。塔の時代を牽引したのは宗教であった。

大聖堂、モスク、伽藍が都市の中心部を占め、中世の都市を形成していったのが見て取れる。

ローマ帝国が崩壊し、蛮族が跋扈する時代は、宗教的用途だけでなく、軍事的必要性からも防衛拠点として塔は重要視された。

第三章の「秩序ある高さと都市景観の時代」では、これまで上へ上へ高さを競ってきた塔の乱立競争が落ち着き、都市全体の街並みを考えるようになった。

ルネサンス時代の絵画技法である遠近法を、都市設計にも活かすことで、理想都市の計画が始まった。

ローマやロンドン、パリなどは景観整理され、この時代に秩序だった街並みが完成したのである。

第四章の「超高層都市の誕生」を代表するのがアメリカの「摩天楼」だ。前章の秩序だった景観を打ち破る高さ競争が新天地で起こった。

それは、旧大陸で起こった「塔の時代」の再来とも見て取れる。

「摩天楼」は産業革命により技術革新と、建設資金を調達できるようになった資本主義経済の子供なのだ。

第五章の「超高層ビルとタワーの時代」では、ついに100メートルを超える超高層ビルがアメリカ、ヨーロッパ、日本にも姿を現す。

「都市更新」をキーワードに、新しい都市像を提示するものとして超高層ビルは乱立していったが、高層建築物がもたらした負の側面についても指摘している。

第六章の「高層建築物の現在」では、かつてないほどの超高層ビルが紹介されている。八二八メートルのブルジュ・ハリファは特に有名なことだろう。

中東→ヨーロッパ→アメリカと移動してきた高層建築物の歴史が、再び中東へ戻ってきたのだ。

経済競争が白熱し、都市間競争を代表するものとして高層建築物の建設が利用されている。

ざっと各章を振り返ってみたが、高層建築物は、時代に応じて目的が変化していったことがわかるであろう。

日本の建造物の事例も豊富なのが嬉しい。現存しない織田信長の安土城について紹介しよう。

織田信長の安土城

城=天守閣のイメージがあるが、その原点となったのが織田信長の安土城である。天守を中心にした城郭形成は安土城によって確立した。

安土城の高さは石垣の高さも含めて、四五メートル。

安土山が標高一九〇メートルにあるので、安土城からは周囲がはっきりと見え、周囲からも安土城はシンボルとして見えていたことだろう。

信長は安土城をさらに際立たせるためにある工夫を行っていた。数多の提灯によってライトアップしたのである。

現代もお城のライトアップイベントは見かけるが、織田信長も実施していたと思うと面白い。

当時の宣教師フロイスはその様子をこう記している。

「それは高く聳え立ち、無数の提灯の群は、まるで上空で燃えているように見え、鮮やかな景観を呈していた」

まとめ

高層建築物というものは、城ならば防衛、大聖堂ならば祈り、と目的がある。

だが、目的だけにとどまらず、見る人を魅了してきたのも事実だろう。

ヴィクトル・ユゴーはこのように述べている。

「一つの建物には二つの要件がある。建物の効用と、建物の美しさである。効用の方は、建物の所有者に帰属するが、建物の美しさはすべての人に帰属する」

つまり、高層建築物には「公共性」がある。都庁は都のものかもしれないが、外を散歩して、建物を鑑賞し堪能することはできる。

そこで暮らす人にも影響を与える高層建築物の効用を知ることは、高層建築物とどう共生していくかを考えるヒントになる。

ニュースや本で出てくる有名な高層建築物を一気に堪能できるので、充実した読書体験ができた一冊だ。

どの章から読んでも問題ないので、建造物に興味がある人にとって、手に取りやすい本であることだろう。

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おくでぃ

▶︎ 数千冊の本に埋もれてる積読家 ▶︎ 古今東西の歴史が好き ▶︎ まれに読書会主催 ▶︎ 餃子が好き ▶︎ HONZのレビュアーになるのが夢

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