本を呼ぶ本
「これはマズい本に出会ってしまった・・・」
そして読了後にそっとスマホを取り出してポチる。
類は友を呼ぶが、面白い本は本を呼ぶのだ。
いやしかし、文学について一切知らないのにここまで心動かされるのは単純にフランス文学が面白いからなのだろう。
フランス文学の救え!
著者はフランス文学でおなじみの鹿島先生。まえがきにこんなことが書いてあった。
「世間の人がまったく価値を認めていないもの」の中に価値を見いだし、そこから新しい価値体系をつくりだすことを、大袈裟にいえば「人生の目的」にしてきました。
ところが、愛するフランス文学が「本当にまったく価値のないもの」と思われるようになり、本屋さんのフランス文学コーナーも縮小する一方。
そんな状況から救うべくフランス文学の「役に立つ」ものはないかと思索して生まれたのが本書である。
出版不況や実利優先の世の中に現れたジャンヌ・ダルクこと鹿島先生がフランス文学の魅力をコンパクトに紹介してくれるのが特徴だ。
フランス文学?なにそれおいしいの?
私はフランス文学はおろか文学自体ほとんど読んだことがない。
かの有名な『星の王子様』すら読んだことのない私でも、読めばフランス文学をもっと知りたくなった。
鹿島先生によると、フランス文学のテーマはいずれも「個」と「個」として生きる選択肢を選んだ場合の問題を扱っていると指摘する。
さすがは自由・友愛・平等のお国。個の解放を最初に宣言したフランスらしさがある。
共同体が弱まり、個として生きることを無理強いさせられている現代に生きるからこそ惹かれるものがあると思った。
現代日本の社会問題を映すフランス文学
副題には『赤と黒』から『異邦人』までと書いてある。
扱っている作品は24作品でどれも名前は聞いたことあるほど有名な作品ばかりだ。
鹿島先生がいまの日本の社会が直面している問題を考える上で役に立つポイントをそれぞれの作品で紹介してくれている。
各作品の名言も一緒に添えてくれているので、前提知識を必要としなくても楽しめるのが嬉しい。
フランス革命が解放した欲望
フランス革命以前は階級は固定されていた。
生まれながらに農民ならばその子供も農民だった。
それが革命により「階級移動」が可能になり、近代社会は始まったのだ。
フランス文学は「階級移動」を求める野心家の話が多い。
『赤と黒』のジュリアンは貴婦人を出世の手段としたり、『ポヴァリー夫人』で「階級移動」の夢を息子に託す姿は現代社会でも、婚活戦争、受験戦争という形で存在している。
個々の不幸は全体の善をつくりだす
東日本大震災やコロナ禍を経験している日本人には『カンディード』が刺さると思う。
世界の創造主が神である以上、この世界にどのような悪が存在していても、その悪は最終的には最善なるものの発現に奉仕する定めであるという思想です。
ライプニッツの唱えた最善説を家庭教師から教え込まれた主人公が、絶対視していた最善説を次第に疑いはじめるストーリーである。
リスボン大地震や七年戦争を経験した主人公は、大きな悪があることを知る。
しかし家庭教師はなおもこう述べている。
個々の不幸は全体の善をつくりだす。よって、個々の不幸が多ければ多いほど、全体はより善になるということだ。
アダム・スミスの神の見えざる手のように全体最適のためには個々の不幸には目を瞑ること。
既存の価値観を揺り動かされる事態に直面したとき、人はなにを感じ、どう動くのか。
そんなことも追体験できることが文学の素晴らしい点だと思う。
さいごに
「役に立つ」の文章が、わたしと本書を引き合わせたが、読むにつれて、「役に立つ」かどうかなど気にしなくなっていった。
「役に立つ」ことはビジネス書に任せておけばいい。
「本当に役に立つ」ことは古典を読めばいい。
そう本書が教えてくれたような気がする。
そして、本書を読むともれなく数冊買うことになるだろうことを予言しておこう。