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【書評】『織田有楽斎』利休を超える戦国の茶人

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有楽町の由来

東京山手線に有楽町駅という駅がある。銀座や日比谷近辺で、近くには皇居もある東京の中心地。

そんな有楽町の名前の由来は、織田信長の弟、織田有楽斎(おだうらくさい)からきている。

信長、秀吉、家康と天下人に気に入られ、数寄屋橋周辺に構えていた屋敷跡地が有楽原と呼ばれていたことから、明治以降、「有楽町」と名付けられた。

そんな織田有楽斎は、織田の名字があることからわかるが、織田信長の九番目の弟で歳は一三離れていた。

「大うつけ」と呼ばれた兄信長と比べて、有楽斎は「へたれ」と呼ばれ、武芸の才には全く恵まれなかった。

そんな「へたれ」有楽斎だが、織田信長が本能寺の変で討たれた後、織田家の家名を残そうと奮闘していく。

託された織田家の子どもたちの未来のために秀吉や家康ら天下人とうまく付き合っていかなければならなかった。

もう頼れる兄はいないのだ。そんな有楽斎を主人公に描いた歴史小説が本書である。

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「へたれ」有楽斎の初陣

有楽斎の初陣は、信長と対立した斎藤龍興との戦になった。齢は一六のときである。

斎藤軍と織田軍ともに死傷者の出た戦で勝利こそすれど接戦であった。

織田家の一員なので当然、鎧兜など装備は立派なものをつけている有楽斎。彼をみかけた敵はこう勢いづく。

「あれこそが織田の大将なるぞ」

向かってくる敵に対して、有楽斎は「へたれ」ぶりを発揮し、手が震えて動けない。

面倒みてくれているじいの平手久秀は、「殺らねば、殺られますぞ」と有楽斎に声をかけ、ようやく我にかえる。

めちゃくちゃに槍をブン回して敵に当てていくも、浅傷しか負わすことができず、ゾンビのように何度も有楽斎に向かってくる。

それに対処するのは周囲の家来だ。「やれやれ、うちの大将は・・」家来はそういい、手加減しながら周囲の敵を蹴散らしていく。

初陣なので大将に手柄を取らせなければならない。そのため、とどめは刺さずに、有楽斎にチャンスを与えているのだが、肝心の大将が手を下してくれない。

しびれを切らした部下は、大将の代わりに後始末をするのだった。

「いっときたりとも、この修羅の場を逃れん」

そう言い放ち、脇に逃げようと走った矢先で大きく転んでしまった。

笑うに笑えない状況。将たるものが逃げ出すとは・・・

そんな弟の初陣を聞いた信長は、一瞬顔を歪めてこういった。

「駄目だな。あやつには前線は向かん」

こうして後方支援の部隊へ栄転?した有楽斎は大喜び。

「兄者・・かたじけない。感謝しておりまするぞ」

「へたれ」有楽斎の初陣はこうして幕を閉じた。

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茶の才能

有楽斎は武芸はてんで駄目だったが、周囲から愛される存在だった。信長も武士としては頼りない弟を可愛がっていた。

そして平手久秀からは茶の作法を習い、自分の才能に気が付く。

のちの世に、

  • かの利休をも超えた茶人
  • 茶の湯太閤

とまで呼ばれるようになる有楽斎の才能の片鱗が垣間見える瞬間だった。

当時、戦国武将の間では空前の茶ブーム。

茶の才能を持った有楽斎は、様々なインテリ戦国武将とコネクションを築いていく。

こうした才能もあり、秀吉、家康からも好かれたのだろう。

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託された織田家の未来

天下統一まで道筋がみえた兄信長を突然悲劇が襲う。

本能寺の変の勃発である。しかも、謀反を企てたのは茶の趣味も合い、仲の良かった明智光秀というではないか。

信長の嫡男、信忠に仕えていた有楽斎は、本能寺近くの妙覚寺に泊まっていた。

武芸に自信のない有楽斎だったが、信忠とともに立て籠もろうと覚悟し、刀を手にとった。

そのとき信忠が「待て」といってとどめた。

「叔父上には生きて、為して欲しいことがある」

「いかにしてでも、この場を逃れでて、岐阜のわが居城へと向かっていただきたい」

「三法師はまだ、ものの分別もつかぬほどに幼のうござる・・・叔父上に庇護を頼みたい。いや、三法師の身だけではござらぬ。わが織田の家を、幾久しく守っていただきたいのじゃ」

主君にこのように頼まれた有楽斎は、断るわけにはいかなかった。

いそぎ着替えて、髷を切り落とし、下僕に紛れて、ひたすら東へと向かった。

兄信長も、主君の信忠の死も見届けることかなわずに逃げ続けた。

こうして、織田家の未来を一身に背負った「へたれ」有楽斎の奮闘記がはじまる。

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さいごに

織田信長なき後は、織田家の乗っ取りを画策する秀吉や家康が近づいてくる。

お市の娘たちや三法師の託された有楽斎は、この強敵とどう向き合っていくのか。

戦国時代から江戸時代までの動乱を生き抜いた「へたれ」の姿が勇気を与えてくれる。

織田信長とは真逆だけど、魅力的な人物であり、こんな人物がいたのか!と思ってもらえるに違いない一冊である。

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おくでぃ

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