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【書評】『ウェルギリウス『アエネーイス』―神話が語るヨーロッパ世界の原点 (書物誕生―あたらしい古典入門)』

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「史上トップ100のフィクション作品」にランクイン

2002年にノルウェーの団体が世界54カ国の著名な作家100人の投票によって選んだ「史上トップ100のフィクション作品」を発表した。そこで、ホメロス、ソポクレス、エウリピデス、オウィディウスと並んで、著者のウェルギリウスもランクインしている。

世界的に有名な作家だが、一般的に日本でのウェルギリウスの知名度は低い。カエサルやホメロスと比べると??が付くのも不思議はでない。ウェルギリウスを知っている人はおそらくダンテの『神曲』で主人公の案内役として出てくるので知っているのではないだろうか。

 

ウェルギリウスとはなにものか?

著者のウェルギリウスは、古代ローマの共和制末期(前70年)生まれ、初代皇帝アウグストゥスの治世(前19年)にこの世を去ったラテン文学最大の詩人だ。現代では『牧歌』『農耕詩』『アエネーイス』の三作が伝えられる。神話の物語でもある『アエネーイス』が西洋世界でどのように読まれてきたのかを本書は追いかけていく。

『アエネーイス』は、古代→中世→近代→現代とどの時代においても読まれつづけてきた最強の叙事詩なのである。時代の制約を受けることなくなぜ読まれつづけてきたのか。その秘密を追っていこう。

 

「西洋の父」ウェルギリウス

ウェルギリウスは大きな時代の変わり目に現れる。2度の世界大戦は西洋の自殺を意味したが、このような大きな変化は初めてではない。たとえば、14世紀はじめにダンテが『神曲』を書いてウェルギリウスを登場させたのは、ヨーロッパ世界が中世から近代へと生まれ変わる時代であった。

戦争で分裂したヨーロッパに再び調和と統合をもたらすために、引っ張り出されたのがウェルギリウスである。現代のダンテに当たる人物がドイツの評論家テオドール・ヘッカーで、彼によってウェルギリウスは「西洋の父」と呼ばれるようになる。

ヘッカーはウェルギリウスの人物と作品のなかに、ヨーロッパ人の精神的支柱を見出した。ヨーロッパ人とは何か。という問いに対して、こう答えている。

歴史の流れの中でローマとキリスト教とギリシアの3つの影響を受けたすべての人間。

さらにヨーロッパ人の特徴として、

内側へ収縮するのではなく、外界から素材を強烈に吸収するとともに、政治制度にせよ文化・芸術にせよ、みずから創造した産物をそのように外へ向かって限りなく放射していく「意欲の広がり・大きさ」である。

を挙げている。こうした「意欲の広がり」はウェルギリウス以前の世界で唱えた人物はいなかった。ローマ以前の古代ギリシアでは「循環的な歴史観」に支配されている。ポリュビオスの政体循環論もヘシオドスも循環的な神話を残している。このような「循環的な歴史観」に対して、ウェルギリウスは性質の異なる歴史観を示しているのが興味深い。それは「永遠のローマ」という考え方で、最高神ユピテルが「永遠の繁栄」と「無限の支配」をローマ人に約束したことをもとに、外へ外へと発展しつづけていく。それがヨーロッパ精神であり、それを最初に体現したのが『アエネーイス』だという。

 

焼却の危機から救ったアウグストゥス

世界史に冠たる叙事詩『アエネーイス』はウェルギリウスの死後焼き捨てるようにと作者自身が求めたと伝えられる。焼却を希望する理由は何だったのかはわかっていない。わかっていることは皇帝の権限によって遺言は守られずに全篇まとめて公表された。アウグストゥスのおかげで後世まで伝わり、2000年後のわれわれも読むことができるのは感慨深い。

 

神話から歴史へ

『アエネーイス』の主人公はトロイヤ戦争でのトロイヤ人の生き残りアエネーアス。彼は神の導きに従い地中海を旅する。最後にはイタリア半島に降り立ち、そこに小さな拠点をつくることになる。その数百年後にアエネーアスの子孫にロムルスとレムス兄弟が誕生する。ロムルスがパラティーノの丘に町を創った。ローマと名付けて。いまだ小さな町ローマはその後「永遠の都ローマ」と呼ばれて全世界中の人々を虜にするのはまだ先のお話。

アエネーアス

トロイヤを脱出するアエネーイスとアンキセス

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おくでぃ

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