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【書評】『バチカン近現代史』ローマ教皇の生き残り大作戦!

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バチカン近現代史

おくでぃ

お久しぶりです!おくでぃです。今回は、知られざるローマ教皇の格闘について描いた本書を紹介していきます。

世界一小さい国の世界一の権力者?

世界一小さい国はどこか。多くの観光客が訪れるのでバチカン市国の名前は知っているだろう。

面積が小さいからといって侮ってはいけない。世界で12億人以上もの信者のいるカトリック教会のボスがローマ教皇だ。

国民国家が台頭し、政教分離を基本とする近代に、相容れないバチカンは悪戦苦闘していく。

2度の大戦を経て、グローバル化の流れが加速すると、本来、国境を越えて信者を獲得してきたバチカンは、活躍の舞台を見つける。

本書は、中世に最強権力者として輝いていたローマ教皇が、近代化に対して、いかに変化し対応してきたのかを追った一冊だ。

著者について

著者はカトリック信者ではないが、カトリック系の学校での教育を受けて興味を抱いたという。

バチカン秘密文書館へアクセスし、一般人には得られない情報を教えてくれる著者には感謝しかない。

『ダ・ヴィンチ・コード』など、映画やアニメでも取り上げられるようになったバチカンに興味がある人にはおすすめの一冊だ。

現世でもっとも神に近い存在

教皇は太陽皇帝は月

これは、ヨーロッパの代表的な世俗の王である、神聖ローマ皇帝、フランス王、イギリス王、すべてを屈服させた教皇インノケンティウス3世の言葉だ。

かつて圧倒的な権威をもち、権力を凌駕していた教皇。「カノッサの屈辱」で皇帝を三日三晩雪の中、謝罪させたエピソードを覚えている人も多いことだろう。

なぜローマ教皇はこんなにも権威と権力をもっていたのか。それは、ペテロの後継者だからである。

ペテロとは、イエス・キリストの一番弟子であり、初代ローマ教皇とされる人物。

イエス・キリストに、「私の教えを広めるために教会を建てよ」と命じられ、ペテロの墓地の上に、サン・ピエトロ大聖堂が建っているわけだ。

近代化の波に翻弄されるローマ教皇

中世最強の権力者だったローマ教皇を脅かしたのがルターの宗教改革だった。カトリックとプロテスタントに分かれて、ヨーロッパ全土を巻き込む三十年戦争が勃発。

徐々にバチカンの権威は低下していったが、とどめを刺したのがフランス革命だ。

「バチカンの長女」とも呼ばれたカトリック国だったフランスが親を裏切る。

本来、ローマ教皇が世俗の皇帝に戴冠するルールだったが、ナポレオンは自分のところへローマ教皇を呼んでおいて、教皇の手は借りずに、己で冠を被る。

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そんな屈辱の瞬間をダヴィットは一枚の絵に描いている。

ヒトラーの教皇

ムッソリーニとの間にラテラノ条約を結んだことで、カトリックはイタリア唯一の国教とされ、バチカン市国の独立が承認された。

ピウス11世は、ポーランドとソ連の戦争で、カトリック国であるポーランドを後押し。「共産主義は伝染病」と声明を出すほど、反共産主義をあらわにした。

ヒトラーがポーランドを侵略する形で第二次世界大戦ははじまったが、これは反共のためにファシストと手を組まざるを得なかった教皇にポーランドが見捨てられたとも言える。

ファシストに肩入れする教皇に対して「ヒトラーの教皇」とまで言われ、批判が多いピウス12世。

彼が本当に恐れたのは、ソ連だけではなく、共産党の国際的組織コミンテルンであった。

冷戦のキーパーソンとなったカトリック教会

バチカンは、冷戦時代にあって、共産主義圏である東側と直接対話のできた数少ない組織の一つであった。

ポーランド出身のカリスマ教皇、ヨハネ・パウロ二世が就任し、ソフトパワーを余すことなく駆使した。

彼がポーランドに凱旋すると、市民は熱狂の嵐。「スラブ人の教皇」と自ら呼び、東欧諸国への影響力が高いヨハネ・パウロ二世にソ連は不快感を強くした。

暗殺未遂事件も起きたが、それにもめげずに、東欧のカトリック信者を鼓舞しつづけるヨハネ・パウロ二世。

ゴルバチョフのペレストロイカを引き金にソ連崩壊への助力になったのは間違いないだろう。

レーガン大統領はヨハネ・パウロ二世についてこう述べている。

「ちょうどソ連が経済力の低下でその軍事力、諜報力、プロパガンダ力を失いつつあったときに、ヨハネ・パウロはその勇気、雄弁さ、想像力、信念と信仰でもって共産主義を切り崩し、やがて冷戦を終結させるパワーを持って登場したのである」

ゴルバチョフは、

「東ヨーロッパの共産主義を突き崩すのに多大なる政治的貢献をした」

と評している。

ちなみに日本をはじめて訪れた教皇もヨハネ・パウロ二世だ。

まとめ

21世紀はグローバル化の時代である。国際社会がやるべき「人道的介入」や「人間の安全保障」を体現する上で、カトリック教会という組織は、ものすごいポテンシャルを秘めている。

信者の数も増えており、ますますローマ教皇のソフトパワーが求められる場面は増えてくることだろう。

日本にはカトリック教徒は1%以下と少数なのでイメージしづらいが、世界的にみればローマ教皇はスーパースターでものすごい権力者なのだ。

そんなローマ教皇がどんな経緯で現代の権力者になったのか。知りたい方にはおすすめの一冊だ。

おすすめ書籍

↑今回、紹介した本書。

↑歴代ローマ教皇を総覧できる素晴らしき一冊。

↑ローマ教皇でたどるカトリック教会の歴史

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