大人気シリーズ最新刊
『怖い絵』でお馴染みの中野先生には、怖い絵シリーズの他に、王家の興亡の歴史を12枚の絵画を通して学ぶシリーズがある。
ハプスブルク王朝、ブルボン王朝、ロマノフ王朝、イギリス王家と続き、遅れてきた帝国プロイセンの王家をテーマにしたのが本書だ。
絵画の知識だけでなく、歴史や人間関係も知れるので大いに楽しめる一冊である。
プロイセン王家の歩み
プロイセン王家というタイトルだが、プロイセン王家がいるわけではない。正しくはホーエンツォレルン家だ。
発音しづらすぎる。。。日本人だけでなくドイツ人も発音しづらいらしい。
知名度も低いのでホーエンツォレルンではなくプロイセン王家というタイトルしたなんて逸話もある。
ドイツ代表といえば、名門ハプスブルク家だったが、ホーエンツォレルン家こそがドイツをまとめあげて第二帝国を誕生させた。
ホーエンツォレルン家飛躍の最初の一歩はスペイン継承戦争だった。
「高貴なる青い血」を継承すべく血族結婚を進めてきたスペインハプスブルク家。
最後の王、カルロス二世は子孫を残すことができない。それがわかると、スペイン王家の次の席を周辺諸国が狙い始める。
親戚のオーストリアハプスブルク家はもちろんのこと、フランスも名乗りをあげる。
こうしてブルボン朝フランスVSオーストリアハプスブルク家のスペイン継承戦争が始まった。
スペインを他国に渡したくないオーストリアハプスブルク家は周辺諸国を味方につけるべくアメを与えた。
ホーエンツォレルン家には協力の見返りに公国から王国へ格上げすることに成功。こうして世襲のプロイセン王家が誕生したのであった。
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歴代王のあだ名
イギリス王家の名前のややこしさは有名だ。ヘンリーだのウィリアムだのエドワードだの同じ名前が繰り返し現れて世界史嫌いを量産する。
プロイセン王家も負けじとややこしい。フリードリヒとヴィルヘルムがやたらと出てくる。○世の順番もめちゃくちゃだ。
- 初代 フリードリヒ一世(猫背のフリッツ)
- 二代 フリードリヒ・ヴィルヘルム一世(兵隊王)
- 三代 フリードリヒ二世(大王)
- 四代 フリードリヒ・ヴィルヘルム二世(デブの女誑し)
- 五代 フリードリヒ・ヴィルヘルム三世(不定詞王)
- 六代 フリードリヒ・ヴィルヘルム四世(ひらめ)
- 七代 ヴィルヘルム一世(白髭王)
- 八代 フリードリヒ三世(我らがフリッツ)
- 九代 ヴィルヘルム二世(最後の皇帝)
なかなかおもしろいあだ名であろう。
兵隊王フリードリヒ・ヴィルヘルム一世
父がとんでもない浪費家でフリードリヒ・ヴィルヘルム一世が引き継いだとき、国家破綻寸前だったという。
そこで財政改革を行い、とにかく節約!!家具も食器も衣装も容赦なくカット!!
ルイ一四世が追い出したプロテスタント(ユグノー)を移民として積極的に受け入れ、自国強化につなげた。
国庫にお金が貯まってくるとそれらを軍備に回した。当時の人口三〇〇万人に対して軍人は十万を超えるほどたくさん採用した。
軍隊マニアのヴィルヘルムにはお気に入りの軍団がいた。「ポツダム巨人連隊」だ。
世界でいちばん美しい娘だのご婦人だのには、私は興味がないが、長身の兵士には目がないのだ
王自身は160cmと小柄な身長だったが、お気に入りのポツダム巨人連隊は平均身長190cm以上で並ぶと圧巻な屈強な男たちを集めた。
巨人連隊を増やすために大男は常に募集中。ときには他国からヘッドハンティングしてきたり、拉致までしたというからびっくりする。
兵隊大好きな夫の妻はハノーヴァー公国の公女ゾフィーだ。彼女はプロイセンの宮廷を優雅なものに変えたかったが、夫はまったく関心を持たない。
むしろ、優雅な宮廷文化は軟弱にさせると嫌っていたほどだ。
夫と相容れないゾフィーの宝が息子のフリードリヒ二世。のちに大王と呼ばれる人物だ。彼は母の愛情を受け、文化も愛するインテリ少年へと成長した。
しかし、読書好きでフルートを吹くフランス風な少年が、軍隊マニアの父と相容れるはずがない。
軟弱な息子を嫌った父との壮絶な闘いが始まる。
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大王と呼ばれた男
一八世紀のヨーロッパでは、絶対君主が啓蒙思想を身に着けようとした時代だった。
合理的判断のもと、国民を導き、近代化をはかる。そんな啓蒙専制君主のカリスマがフリードリヒ二世だ。
かつて絶対君主のカリスマがルイ一四世だったとすると、次は啓蒙専制君主のカリスマ、フリードリヒ二世の時代がやってきたのだった。
しかし、彼の人生は順風満帆なんてものではなかった。軍隊マニアの父親との対決が待っていた。
フリードリヒ二世は学問・芸術を愛してフルートのコンサートなど開く文化系男子。だが、軍隊マニアの父親からすると、そんな軟弱な息子が許せるはずがない。
根性を鍛えてやるとばかりに叩いてしつけようとする。ムチで打ち、食事を与えないのは当たり前。
はては楽器を壊したり、書物を焼いたりとトラウマになるレベルで心身ともにボコボコにされる。
こんな生活が続いたある日、親友のカッテ少尉がイギリスへの国外逃亡を提案。フリードリヒとともに、母親のゆかりのあるイギリスへ助けをもとめようとしたのだ。
が、常に監視を置いていた父にみつかり、フリードリヒとカッテは捕まってしまうのだった。
国外逃亡。それも王子を逃亡させるなんて大きな罪である。カッテは無期懲役を言い渡されてしまう。
けれども、こんなのでは怒りが収まらないパパは、カッテに死刑を命ずる。
カッテは斬首されることとなり、そこに立ち会ったフリードリヒ二世は、
「私を許してくれ!」と絶叫し、失神してしまうのだった。
親友が死に、精神的に廃人になってもおかしくない状況だが、彼を立ち上がれたのが親友が残した手紙だ。
あなたのためなら喜んで死ぬ。一刻も早く父王と和解してほしい。
フリードリヒ二世はここから人が変わったように真に後継者にふさわしい振る舞いをしだす。
父の求める理想の皇太子を演じたのだ。インテリらしい啓蒙主義的政策を打ち出していた彼だが、父以上に軍拡を始める。
この軍隊を使ってヨーロッパ中を震撼させる事件を起こすのは、遠くないおはなし。
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さいごに
ハプスブルク家やブルボン家ほどの華やかさに欠けるため、あんまり知らなかったプロイセン王家の歴史を絵画を通して知れる本書は素晴らしい企画だと思う。
我らが日本の岩倉使節団が最も参考にしたのがビスマルク率いるプロイセン王国だった。
明治日本の元老が憧れたプロイセンがいかにして興隆していったのか?その流れを理解するのにうってつけの本だと思う。