人類史の4/5は古代である
時代区分をみてみると、人類の文明史五千年の中で、四千年は「古代」が占める。
「古代」は思った以上に分厚く、とりわけ「宗教」は非常に大きな影響を及ぼしてきた。
本書が扱う古代地中海世界で、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった一神教は誕生したのだ。
現代は、神が死んで、科学がその座についているが、古代では神様が世界の中心にドン!と居座っていた。
古代人と神様の距離は近い。今の私達には聞こえない神々の声を聞いていた古代人と宗教の関係を描いたのが本書である。
自然の力の背景に神々が隠れている
古代において人間の運命のほとんどは自然に左右され、コントロールのきかないものだった。
人知を超えた出来事に出くわしたとき、その後ろには大きな力が働いていることには知っていた。
そして、それらは神々の意志によって引き起こされていると考えたのだ。そう!世界は神々によって創造されて突き動かされているのだ。
神々と人間の違いはなんだろうか。神様に似せて人間は創られたというお話もあるが、メソポタミアには人間創造の面白い話が残っている。
人間創造の神話
人間が誕生する以前には、不死の神々だけが暮らしていた。神々にも序列があり、上級神と下級神に分かれていた。
下級神は上級神のために農作業を行い、働かなければならない。神といえど、下級神は大変なのだ。
終わらぬ労働に嫌気がさした下級神たちはついに立ち上がる。職務放棄して神々の王エンリルに直訴したのだ。
下級神のストライキによって、飢餓と貧困が起こり、神々の世界は大混乱。(不死ではあるが)
困り果てた神々は、一番の知恵者であったエンキ神に相談したところ、思わぬ解決策を出してきた。
それは、下級神の労働を代わりに行う「人間」というものを創るという提案だ。
これに神々は賛同し、人間は土で創られて土に還るように創られた。
下級神がストライキを起こしたように反乱されたらたまったものじゃないので、人間には寿命を定め、不死ではなく死を運命づける徹底ぶり。
こうして人間は死ぬという運命が神々によって決められた。
この運命(死)から逃れるために試行錯誤していくのがこれからの歴史である。
永遠の命は神々に近づくことであり、それを時の権力者が求めたのも分かる気がする。
エジプトのオシリス神が一度死んで、復活して冥界の王になった事例を元に、エジプトの人々は死後の世界を期待してミイラ作りに励んだ。
不幸なのは祈りが足りないから?
人生山あり谷あり。古代人は不幸に見舞われるのは、正しい生き方をしていないからだと考えた。
正しい生き方とは、神々を敬い祈りを捧げることだ。個人だけでなく共同体単位でも捉えられた。
国が乱れたり、戦に負けるのも神々への祈りが足りないからであって、祈りや儀式を行わないものには罰や暴力が加えられた。
キリスト教にしても、イエスを信じているから弾圧されたというようも、ローマの神々への祈りを行わないから弾圧されたというのが興味深かった。
占い好きなのはいまも残っていて、朝の情報番組で毎朝占いが届けられている。自分の星座が12位になるのは純粋に祈りが足りないからかもしれない。
さいごに
本書では、豊かな多神教世界が花開いた地中海世界で最後には一神教世界が占めるようになったのはなぜか。という疑問に答えるために、ピースを集めて要因を探っている。
死の運命を知った古代人は、死から逃れるための救済密儀宗教にハマっていった。
死を意識したらゲンナリしてしまうものだが、古代人は希望ももっていた。聖なる存在になれば運命から逃れられると。
死から目をそむけさせてくれる宗教は阿片でもあり、希望でもあるのだと思った。