アンチエイジング時代!
リンダ・グラットン教授が『ライフ・シフト』で衝撃的な発表をした。「人生100年時代」。かつて人類が体験したことのない超長寿社会が訪れると指摘する。始皇帝は晩年、不老不死の仙薬を求めて、世界中に使者を派遣した。日本にやってきたと伝わる徐福伝説は有名だ。そんな始皇帝が求めた不死は無理でも、不老は可能になりつつある。仙薬ではなく科学技術によって。
平均寿命が短かった頃は、「長寿」は喜ばしいことであったが、いまは違う。「長寿」はあまり好ましい価値ではなく悪い面にばかり目が行く。そして人々は「健康寿命」を求めるようになった。誰も歳は取りたくない。アンチエイジングなんて言葉が流行りだしているのも、いつまでも若くいたいという欲望からであろう。
本書は誰もが嘆く「老年」の良い面に目が行くように、ローマの賢者が教えてくれる一冊だ。姉妹本の『友情について』と同じく、今回は2人の若者からの質問に賢人カトーが答えていく形式をとっている。
定年退職後を襲う虚無感
日本だけでなく、ローマでも老年を嘆くものは多かったようだ。カトーはかつて執政官まで務めた同僚が、「快楽がなくなった」「これまで敬意を払ってくれた人々から蔑まされるようになった」と嘆いている姿を見かけた。まるで定年退職後の日本のサラリーマンと同じようなことを言っているのが面白い。これに対して、カトーはこう述べる。
愚か者は己の欠点や咎を老年の所為にするものだ。
もしも老年の所為でそうした虚無感がおこるなら全ての年寄りにも起こるはずである。ところがわしは、不平のない老年を送る人を沢山知っておるぞと言っている。満足する老年を送っている人はこう感じているらしい。
そういう人は欲望の鎖から解き放たれたことを喜びとし、身内の者から軽蔑されることもないのだ。
欲望からの解放。これが老年のメリットの一つだという。老年の所為にするな!性格の問題と切り捨てる。とはいえ老年を嘆くものは多い。どうして彼らは老年を惨めなものと思うのか。カトーはこう分析する。
老年が惨めなものと思われる4つの要因
- 公の活動から遠ざけるから。
- 肉体を弱くするから。
- ほとんど全ての快楽を奪い去るから。
- 死から遠く離れていないから。
なるほど。納得のラインナップである。もっともな理由であるこれらを本書では一つ一つ検討していく。そして老年をうまく乗りこなしている賢人たちのライフスタイルを紹介してくれる。読者の楽しみを奪うことになるので詳細はぜひ本書を手にとって自身の目で確認してほしい。
最後に
カトーのピックアップした4つの要因はとても参考になる。おそらく老年を迎える人みんなが一度は悩まされる事柄ばかりだろう。老年への対処法はあるといえばあるし、ないといえばない。本書を読めば、老年が理由ではなく、性格や考え方によって老年を嘆く人がいることがわかる。年相応に自然な範囲で物事を堪能するのが一番なのかもしれない。そう考えるとアンチエイジングは自然に反しているので不健全な行為ともいえる。私は昔から老年についてばかり考えている。理想の老年をむかえられるように今日も積み上げる。歳をね。