歴史 社会 経済

【書評】『モータリゼーションの世紀』T型フォードから電気自動車へ

スポンサーリンク

自動車は長らく人類の夢であった。動物や自然のエネルギーに頼らずに機械の力で動く乗り物。それが自動車である。これまで数千年もの間、人類をもっとも運んできたのはお馬さん。車が普及する以前は馬車が王者であり、自動車にとって代わられた現代でも、馬はエンブレムに刻まれ高級車界の王者としていまなお君臨している。

https://www.autocar.jp/news/2017/08/18/234138/4/

そんな自動車はヨーロッパ生まれアメリカ育ち。自動車王ヘンリーフォードがT型フォードを発明し大衆へと普及したことによって歴史が社会が町が生活が一変した。フォードが創ったフォード社を含めたビッグスリーと呼ばれる米大手自動車メーカーの興亡の歴史を軸に、自動車業界の100年を辿るのが本書である。その中身を少し紹介しよう。


そのはじまりはヨーロッパである。最初に歴史の表舞台に登場したの蒸気自動車。産業革命の代名詞でもある蒸気機関を動力として車が発明された。開発者はフランスのニコラ・キュニョー。軍事技術者であった彼は大砲牽引用の車として「最初の自力走行路上車」を世に送り出した。しかし不安定な車体でテストで事故を起こしたため、不名誉にも世界初の交通事故を起こした車として記録に残っている。

キュニョーの作製した世界初の自動車:https://galapagonia.net/blog-entry-1342.html


そんなおりドイツでは2人の巨人が生まれている。ダイムラーとベンツである。ベンツは世界で最初の自動車の特許をとり、彼の車は一般に売り出された最初の車となった。だが、ドイツ国内では売れず、新しいもの好きなフランス人のほうがよく購入したという。ベンツは自伝で「ドイツ人は舶来信仰に凝り固まり自国の発明品に冷たい」と嘆いている。

 


長らくガソリン車の天下が続いたため、ガソリン車→ハイブリッド車の歴史しか見えてこないが、歴史を紐解くとなんとガソリン車よりも先に電気自動車が流行っていたのが驚きだ。蒸気自動車の次の第二の自動車は電気自動車であった。

 


実は起源も古く、19世紀前半には試作車が登場していたらしい。強力な蓄電池が開発されたことをきっかけに一気に注目を集め、運転操作の容易さ、悪臭も排煙もなく静かに走行できるメリットから一時メインストリームに躍り出たことがある。しかし、当時の蓄電池は重く、寿命が短かったため、限られた範囲のみでしか有用さを発揮できなかったため後続のガソリン車にその地位を長らく明け渡すことになった。

 


ガソリン車の次は燃料電池自動車か電気自動車か覇権争いが起きている様子をみていると、電気自動車の復活は微笑ましい。歴史は繰り返すのだろうか。


その後、大西洋を渡ってアメリカに舞台はうつり、自動車王ヘンリー・フォードの登場を待つこととなる。ビッグスリーの歴史がここから始まる。我が国でもJALの破産はエポックメイキングであったが、それ以上のことがアメリカでも起きた。永遠の繁栄を謳歌したであろう巨人たちはなぜ破産するまでに至ったのか?

 


気になる読者はぜひ本書を手にとってみてほしい。読めば、クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』が思い浮かぶはずだ。

 


現在、自動車業界は100年に一度の大転換の渦中にいる。主なトピックは2つ。「環境問題」と「自動運転車」だ。ご存知のとおり環境問題への関心は年々増しており、自動車の排気ガスが地球温暖化の主原因とされており、各社がこぞってガソリン車→クリーンな動力の自動車への開発を急いでいる。

 


かつてマスキー法により排出ガスの厳しい基準が設けられた。厳しすぎるかつビッグスリーがあぐらをかいていた結果、アメリカ本土では実施するまで20年も先延ばしされた法律だ。四駆では後発組であるホンダがマスキー法の基準をクリアするCVCCエンジンを開発しアメリカでの知名度を飛躍的に上昇させたこと、ひいてはメイドインジャパンの信頼性を高めたことも知っておきたい。

 


もう一つは自動運転技術である。人間の操作を必要としない。100年を経て真の意味での自動(運転)車という夢の技術はもうそこまできている。といったように未来予測は玉石混交あるものの実際のところどうなるかはわからない。そんなとき常にヒントは過去にしかない。そこでビッグスリーの興亡を軸に自動車業界100年の歴史を紐解いた本書はひとつの参考になると思う。

 


岩波現代全書は「全分野の最新最良の成果を好学の読書子に送り続けていきたい」という願いの下、2013年に創刊されたそう。まさに自動車産業が100年に一度の転換期にいる今を生きている我々に導きの光を指してくれる。まさに出版社の意思を感じる一冊であった。

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

おくでぃ

▶︎ 数千冊の本に埋もれてる積読家 ▶︎ 古今東西の歴史が好き ▶︎ まれに読書会主催 ▶︎ 餃子が好き ▶︎ HONZのレビュアーになるのが夢

-歴史, 社会, 経済

© 2024 oku-d Blog Powered by AFFINGER5