日本人が世界一勉強した数年
日本人が世界一勉強したモーレツな数年間がある。それは岩倉使節団による世界一周の試みだ。
明治政府が出来てまだ四年しか経っていない時期に、政府の要人の半分が一年九ヶ月も日本を留守にする。
創業四年目の会社の役員の半分が一年九ヶ月も留学にいくと言ったらどうだろう?
当然反対するに決まっている。
トチ狂っているとしか思えないが、明治政府は政府を二分してでも列強諸国を直にみて、日本の近代化のヒントを死ぬ気で学びにいったのだ。
私は岩倉使節団を日本が世界一勉強した時期だと定義し、この勉強のおかげで殖産興業の方針が定まり、日本を近代化に導いたと思う。
『米欧回覧実記』は随行した久米邦武による岩倉使節団一年九ヶ月間のエンサイクロペディア的な大旅行記だ。
回覧記 汲めども尽きぬ 泉かな
三〇年以上も本書と付き合っても、飽きることがないという人もいる。泉のような豊潤な世界を味わせてくれる知る人ぞ知る古典。
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幻の古典
こんなに面白い本だが、これまで読まれてこなかった。それにはこんな理由がある。
- 原本は漢字とカナで書かれていて読みづらい
- 現代語訳もできたが値段が高かった
- 全五巻セットじゃないと買えなかった
3の理由は単純にひどいと思うが、明治の本だと漢字とカナだらけで読む気が失せるのはすごくわかる。
ところが、今回、上記のネックをすべて解決してくれる本が出た。それが本書だ。
現代語訳で千円代で手軽に買える。サイズも文庫を少し大きくしたくらいで最高!!
ここまで環境が整ったのは二〇〇八年で、この時代に生まれたことを感謝したい。
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岩倉使節団とは
岩倉使節団は、岩倉具視を全権大使として、維新三傑である木戸孝允、大久保利通や、日本初代首相である伊藤博文ら四八名と留学生も同行させ、総勢一〇〇名を超える大所帯だった。
期間は一八七一年十二月二三日〜一八七三年九月一三日に横浜に帰還するまでの約一年九ヶ月。
アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、プロイセン、ロシア、デンマーク、スウェーデン、イタリア、オーストリア、スイスの一二カ国をめぐり、各国の自然、資源、民族、社会、政治、法制、経済、産業、技術、軍事、商業、教育、文化など詳しく観察した結果を記している。
本書は全五巻構成で、アメリカ編、イギリス編、三冊はヨーロッパ編と分かれているが、どこから読んでも問題ない。
本書のところどころで銅版画が入っていて、読んでいると世界旅行している気分になる。
ナイアガラの滝や大英博物館、エルミタージュ美術館にも明治の日本人は訪れているのだ。
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さいごに
明治の日本人が世界の何をみてきたのか。自分も使節団の一員となって、随行し、見聞しているかのように錯覚させてくれる本だ。
これからはグローバル化だ、国際教育だと煽り立てるが、もっとも良い教材は本書だと思う。
身近に海外に興味ある若人がいる方には、ぜひ本書を勧めて欲しい。
世界に誇るべき日本人の記録遺産で、これから世界で戦いたいならば、日本人として読まないわけには行かないだろう。