幕末はいつまで?
日本史で最も人気な時代といえば、「戦国時代」か「幕末」だろう。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らの天下人はCMでもパロディで使われるし、幕末をテーマにしたるろうに剣心のような作品もある。
これらに「源平合戦」の時代を加えた3つの時代だけでNHK大河ドラマの4分の3くらいを占めるらしい。
そんな「幕末」はペリー率いる黒船が浦賀港に来航したことから始まることは有名だが、その終わりはご存知だろうか。
もちろん厳密な決まりがあるわけではないが、一般的にはペリー来航からはじまり、西南戦争で終わると言われている。
ペリー来航に比べると、知名度に劣る西南戦争。これが一体どんな戦争だったか知っている人は意外と少ないのではないだろうか。
西南戦争は明治十年二月から九月にかけて行われた近代日本最大そして日本史上最後の内戦である。
明治政府を創ったのは薩長土肥を中心とした雄藩連合で、軍の中心は西郷隆盛だ。そんな西郷隆盛が明治政府と戦ったのが西南戦争で、そのインパクトは計り知れなかった。
本書では、なぜ西郷隆盛が反逆者として明治政府と戦ったのか。また彼を取り巻く環境や支持者について描かれた新書だ。
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不人気だった明治政府
明治維新の華々しさばかり宣伝される後世に生きる我々からすると意外に思われるが、できたての明治政府は人気がなかった。
明治政府が人民から支持されるようになったのは日清戦争に勝利してから(明治二八年)とだいぶ先の話なのだ。
西南戦争が起きたのは明治十年。まだまだ政府への不審感もあり、特に専制政治だと批判の声が上がっていた。
言論ならば弾圧してしまえばいいが、より怖いのは武力による反乱だ。
政府は懸念していたものがある。それは士族の反乱。
「武士は食わねど高楊枝」ということわざがある。
どんなに貧しくても楊枝をかじって食べているふりをするくらい武士はプライドが高かった。
それに江戸時代では俸給があり、働かなくとも飯を食っていけた。
士族が士族を倒して明治政府を創ったのに、明治政府は士族の特権とどんどん奪っていく。
廃刀令に秩禄処分で、武士のプライドも経済力も奪われた士族は不満をためていく。
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未完の革命
そんな士族たちが各々の不満や理想を抱えながら、再度の政府転覆の可能性を見出しその力にかけた存在が西郷隆盛だった。
第二の明治維新を起こせ!!反逆にはシンボルが必要だ。そのシンボルとして求心力になったのが西郷隆盛であった。
維新三傑と呼ばれ、江戸幕府を終わらせた実績と、人徳、人望、それに明治政府とも距離をおき、静かに隠居している西郷隆盛を周囲がほうっておくはずはない。
西郷隆盛自体は、西南戦争には乗り気ではなかったが、政府による西郷隆盛暗殺計画が発覚し、それに怒り狂った弟子たちの暴発を止めることは無理だと悟った西郷隆盛は覚悟を決める。
「西郷立つ」
その知らせに明治政府は震撼するとともに、予見していた明治政府は対策もバッチリととっていた。
幼馴染の大久保利通率いる明治政府は、電信網が発達しており、情報収集後の兵力の動員も優れていた。
誕生したばかりの「日本軍」がはじめて経験した本格的な戦争。それが西南戦争だった。
西南戦争を経験し、強くなった日本軍は、一度は否定した西郷隆盛が考えていた征韓論を推し進めるかのごとく、隣国へ出兵していく。
西郷隆盛はロシアからの防衛を第一に考えており、それを実現するために私学校をつくり準備してきた。
その私学校の生徒たちとの戦争を経て、西郷隆盛の屍を乗り越えて、西郷隆盛の考えていた通りに歴史が進むのは皮肉なものである。
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みんな大好き西郷隆盛
福沢諭吉、勝海舟、中江兆民、内村鑑三ら著名人も皆、西郷隆盛に未完の理想を見出している。
福沢諭吉は西郷の挙兵についてこう述べている。
日本は「文明の虚説」に流されて「抵抗の精神」を衰退させ、専制政治を増長させていると嘆いた。だからこそ、西郷の抵抗は専制政治に対する自立した個人の抵抗として捉えられ、その正統性を認められた。
また内村鑑三はこう述べる。
明治維新が西郷の理想に反し、その「遠大な目的の達せられなくなったことに失望した結果」として西郷は蹶起したと述べ、その敗北と死によって「武士の最大なるもの、また最後のものが、世を去った」と嘆いた。
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さいごに
西郷隆盛の挙兵は、武力で革命を起こす最後のチャンスであった。
バスに乗り遅れるなと多くの旧士族が参戦したが、反逆は未完に終わってしまった。
だが、西南戦争は未完に終わったがゆえに、西郷隆盛は希望や可能性を含むアイコンへと昇華した。
西郷隆盛はアイコンなのだ。海外でたとえるとチェ・ゲバラに近いかもしれない。
彼も一度目の革命は成功(キューバ革命)。その後も他国で革命を起こすも失敗に終わる。
失敗したことがむしろゲバラを永遠の革命のアイコンに昇華した節がある。
西郷は、明治国家が成長過程を歩むなかで切り捨て、排除してきた様々な可能性と、まだ見ぬ未来の可能性とを象徴していた。
西郷隆盛がいまだに人気な存在な理由が本書を読んでようやくわかった気がする。
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