古典 書評

【書評】『茶の本』西洋に日本文化を伝えた名著

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The book of tea

日本を太平の眠りから目覚めさせたのは浦賀に突如現われた黒船の砲声だった。

その後、列強諸国に追いつけ追い越せと文明開化と称し、西洋文化を積極的に取り入れていった明治時代。

東洋側(日本)から西洋側を知ろうとするも、西洋側の日本理解はまだまだ不十分であった。

そんなおり、明治期に西洋における日本文化理解を大いに助けた名著が2冊ある。

一冊目は、新渡戸稲造の『武士道』。もう一冊が、今回紹介する岡倉天心の『茶の湯』だ。

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どちらも知名度はあれど読んだという人は少ない本ではないだろうか。名著とはだいたいそんなもんであるが。

もともとは英語で書かれた本書を、日本人にも読んでもらおうと日本語訳したのが本書だ。

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西洋を飲み込む茶の魅力

岡倉天心が日本を海外に紹介する際に選んだキーワードが『茶』であった。

なぜ、『茶』をテーマに選んだのか。それは、『茶』が、西洋を魅了し、飲み込んでしまうほど魅力に溢れた文化だからに他ならない。

岡倉天心が生きた近代は、西洋列強による帝国主義の時代であった。弱肉強食。

西洋列強の文明文化こそが正解で、遅れた文明(西洋以外)を開花させてやると植民地支配に勤しんでいた。

当然、支配する側からしたら、支配される側の文化など馬鹿にされ、嘲笑されるものだろう。

しかし、支配者側もこの褐色飲料の魅力には抗うことができなかった。

世界最強のイギリス帝国は、もはやお茶なしでは生きられない。ティータイムという文化も受け入れてしまったではないか。

そんなお茶だが、面白いことに最初はこんな風に言われていたらしい

茶を用いれば男は身のたけ低くなり、みめをそこない、女はその美を失うと。

そもそもお茶は高級品だったので王室もしくは貴族しか飲めない代物でもあった。

こんな言われようのお茶だったが、時代を下るにつれて庶民の間でも広まり、コーヒーハウスではお茶も売られるようになる。

まもなく必需品となったお茶の税金を巡って争い、ボストン港に茶箱を投げ込んだことをきっかけにはじまったのがアメリカ独立戦争。

現世界最強国家を誕生させたのも『茶』であり、不思議な飲料だと常々思う。

日本で生き残る茶の文化

そんな『茶』は日本発の文化ではない。中国から渡ってきたことはご存知だろう。中国へ留学していた栄西の帰国とともに日本へ伝わってきたといわれる。

彼が持ち帰った種は日本の土地にもうまく馴染み、宇治は、今なお名茶の地として知られている。

南宋より持ち帰った茶は禅とセットであり、禅もまた日本中に広まった。

南宋はモンゴル帝国の進出で文化運動が絶たれたが、元寇をうまく追い払った日本では、茶の文化は生き残ることができた。

飲むだけに限らず、茶は宗教にまで高められ、無為自然を体現するかの如く作法で、道教の仮の姿とも呼ばれるほどになった。

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さいごに

少子高齢化の進む西洋列強に代わって、21世紀はアジアの時代と言われている。

そんな中、東西文化理解が求められる時代であるが、未だに偏見・差別はなくなることがなく、悲しい事件が報道される日も少なくない。

相手を知るためには、相手がどんな土地で、どんな文化の中で生活を送っているのかを知る必要がある。

19世紀は間違いなく西洋列強の時代だった。東洋は西洋を学ぼうとしたが、西洋は東洋を学ぼうとしただろうか。

考えてみれば、キリスト教の宣教師は、教えることはあっても、教えを受けようとはしない。

岡倉天心は、そんな傲慢な西洋文化に対して東西文化の誤解をなくすために、茶をテーマに日本文化を発信した。

こんなことも言っている。

東西両大陸が互いに奇警な批評を飛ばすことをやめにして、東西互いに得る利益によって、よし物がわかって来ないとしても、お互いにやわらかい気持ちになろうではないか。

岡倉天心が生きた時代よりも我々は西洋との距離がぐっと縮まっている。

我々の先人がどのように日本文化を紹介したのか。それを知るのに岡倉天心の『茶の湯』は最良の書といえる。

なんたって短いのでとても読みやすい。ぜひ手にとってもらいたい古典だ。

最後に読んでゾッとした岡倉天心の言葉を載せて終わりにしたい。

西洋の諸君、われわれを種にどんなことでも言ってお楽しみなさい。アジアは返礼いたします。

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