悪夫ソクラテス
でもクサンティッペが小言を言うのもわかります。歳の差はだいたい30歳ほど離れていたといいますし、なによりソクラテスはニートみたいな存在でした。
収入があればいいですが、弟子と議論に戯れたり、高位な人に質問しまくって喧嘩をふっかけている夫に愛想をつかしてしまうのも無理はありません。
『ソクラテスの妻』という小説を書かれた作家の佐藤愛子さんは「ソクラテスのような男と結婚すれば、女はみんな悪妻になってしまう」と頷いてしまう言葉を述べています。
そんな悪妻クサンティッペも、ソクラテスに死刑が言い渡された際には、嘆き悲しみ取り乱したと言われています。友人の助けもあり牢から逃げることもできましたが、法に従い、死を受け入れるソクラテス。子供と共にそばにいて泣き止まないクサンティッペのことを友人に託して、彼は毒杯を飲み、亡くなりました。
クサンティッペは本当に悪妻だったのか?
クサンティッペについては、弟子のプラトンの残した著作でもあまり良いようには書かれていません。悪妻としてのエピソードも創作が多いのです。師匠のソクラテスと喧嘩ばかりしていた奥様を弟子たちはあまり良く思わなかったのでしょうね。ジョン・レノンにおけるオノ・ヨーコのように。
ソクラテスは、かの有名なデルフォイのアポロン神殿で「ソクラテスより知恵のあるものはいない」という神託を受けました。にもかかわらず妻が後世に残る悪女というのが面白いですね。「知恵があっても悪女かどうかは見抜けない」
でもソクラテスは悪女かどうかなんて一切気にしないほど、おおらかで器の大きい人でした。そんな彼になんだかんだ別居も離婚もしていないクサンティッペはいい夫婦だったように思います。
弟子のプラトンによって、ソクラテスの生き様、死に様は『ソクラテスの弁明』の読者の心に永遠に刻まれることとなりました。またクサンティッペも弟子の著書のおかげで数千年もの間、悪妻として記憶されることになった可愛そうな奥様だったのです。