極東の小国の大帝
明治時代は輝かしい時代だと言われる事が多い。
隣国がアヘン戦争で欧米列強の半植民地になる姿をつぶさにみていた先人たちは、天皇を頂点とした国造りの必要性に迫られる。
幕末の動乱を経て、王政復古、政府を樹立した日本が、極東の小国から欧米列強にも並び立つ近代国家へと飛躍したのが明治時代に重なる。
昭和の戦争の大失敗と比較しても明治時代の成功は神格化されつつある。
明治維新の輝かしい歴史ばかりに視点が行きがちな空気もところどころに感じるのも明治が良い時代だったからなのだろう。
そんな明治時代に君臨していたのが明治天皇だ。
明治天皇の在位期間は歴代天皇の中でも二番目に長い。
にも関わらず不思議と明治天皇についての伝記は少ない。
著者が「エンサイクロペディア・ブリタニカ」で調べたら、明治天皇の記述はわずか八行のみ。三船敏郎は三八行、三島由紀夫が七九行なのと比べると驚くべき少なさだ。
満足のいく明治天皇の伝記がなかったので調べてみることにした著者は、日本国籍を取得した日本文学者として著名なドナルド・キーン氏。
本書は、一万ページにも及ぶ公式記録『明治天皇紀』や外国人がみた天皇の姿から、その素顔に迫る。
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大酒飲みの天皇
その人を知るには好き嫌いから。
明治天皇はお刺身が大嫌いだったそう。当時の京都人も海魚を食べる習慣はなかったので珍しいことではない。
花見も嫌いで風呂も嫌い。桜好き、綺麗好きで知られた日本人のステレオタイプからかけ離れた人物だったことが窺える。
食事は日本料理が一番好きだが、外国の食べ物も好き好んだ。特にアイスクリームやアスパラガスは大好きで、宮中で長らく守られてきた肉食の禁が解かれると牛肉もガツガツ食べた。
文明開化は市井だけでなく宮中でも行われていたのだ。
一番周囲を困らせたのがお酒。とにかく大酒飲みの明治天皇はテーブルの上の酒がなくなるまで離れない。
明け方まで飲むこともざらにあったという。まるでアッコさん。
ただどんなに飲みつぶれても、翌日5時には起きて仕事をしているので、周囲からは尊敬されたとか。
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あの肖像の真実
明治天皇といえばこの写真を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
幕末期にはカメラがやってきて、物珍しさに多くの人は写真を撮られることが大好きだった。
しかし、天皇は大のカメラ嫌い。あの西郷隆盛も写真嫌いでまったく写真が残っていないのは有名だ。
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え?これは写真じゃないの?
そうこれは写真のように見えるが、イタリア人画家エドアルド・キヨッソーネが描いた絵なのだ。
当時は外国からのお客様もたくさん来ていて、紹介するときにも肖像写真がないとなにかと不便。
伊藤博文も何度もお願いするも写真嫌いなので撮らせてくれない明治天皇。
そこでこっそりとキヨッソーネに依頼して、ふすまの陰に藏れ、写生させたのがこの肖像画なのだ。
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さいごに
他にもはじめて日本全国をまわった天皇だったりと、はじめてづくしだったので特異な天皇になれたのかもしれない。
儒学者として立派な統治者になろうと、自らに厳しい天皇は愛される存在になったのだろう。
日本が世界から認められたのは日清戦争の勝利がきっかけだ。日清戦争、日露戦争、日英同盟と戦争の勝利が極東の小国に列強のイスを用意したことを岡倉天心は皮肉だと指摘した。
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反戦の立場だった天皇は勝利しても相手国を侮辱したりすることなく友好国としての信頼を失うことなく思いやっている。
清に勝利し後は、伝統的な良き関係に戻れることを望んだのだ。
明治天皇は軍事に口をはさむ権利があったのにも関わらず、権力を行使しなかった。
自制できる素晴らしいリーダーを持てたのは、幸運だったのかもしれない。
中国の歴史でも賢帝の下では、国が繁栄する。大帝と呼ぶにふさわしい明治天皇の下で輝かしい時代を築いた記憶は今も色あせていない。