古典 政治

【書評】『職業としての政治』政治家に読んでもらいたい本No.1

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あるべき政治家の姿

コロナによって政治への不信が募っておる。世界的パンデミックに対して有効な手立てを打てない政治家。それをバッシングするマスコミ。もはや見慣れた構図である。印象的だったのは政府が世間の声に対して敏感に反応して風見鶏になっている点だ。

感情で訴えかける世間に対して政治は為す術もない。それが現代であり、混迷の原因に思うが、政治家としてのあるべき像を思い出させるのが本書でのヴェーバーの肉声だ。

 

戦間期に行われた講演録

ヨーロッパ文明を破滅へと導いた第一次世界大戦は1918年11月11日に停戦となった。第一次世界大戦の清算としてのヴェルサイユ条約が調印されたのが1919年6月28日。

本書は熱烈なナショナリストであったヴェーバーが学生団体の誘いに応じて行った150人規模のホールでの講演録である。

はじめにヴェーバーはこう断っている。

諸君の希望でこの講話をすることになったが、私の話はいろんな意味で、きっと諸君をがっかりさせるだろうと思う。

時事問題についての態度表明を期待しているだろうが、そういう話はあまりしない。講演で主に話すのは、政治とは何か。それがどういう意味をもちうるのか。もっと深い話についてだ。

 

政治とはなにか?

ヴェーバーはこう答えている。

政治団体ー現在でいえば国家ーの指導、またはその指導に影響を与えようとする行為

昔は多種多様な政治団体がいて、物理的暴力をふるいあっていた。いわゆる無政府状態。当初は国家も政治団体の一つに過ぎなかったが、やがて国家が最大の政治団体となり、その領域内での暴力を独占するようになった。そしてヴェーバーはこう定義する。

政治とは、国家の指導またはその指導に影響を与えようとする行為である。国家とは、ある一定の領域の内部で、正当な物理的暴力行使の独占を実効的に要求する人間共同体である。われわれにとって政治とは、権力の分け前にあずかり、権力の配分関係に影響を及ぼそうとする努力である。

政治の正体が権力の分配である以上、政治と権力は運命共同体である。政治家は皆、政治を行うために権力を追い求めざるを得ない。

 

権力という魔物を飼わなければならない政治家の宿命

権力という魔物に取り憑かれるとどうなってしまうのだろうか。ヴェーバーは「権力感情」というキーワードをもちいて説明している。

形式的にはたいした地位にない職業政治家でも、自分はいま他人を動かしているのだ、彼らに対する権力にあずかっているのだという意識、とりわけ、歴史的な重大事件の神経繊維の一本をこの手で握っているのだという感情によって、日常生活の枠を越えてしまったような一種昂揚した気分になれるものである。

権力の持つ「他者を動かすチカラ」に人は魅了されてしまう。そんな権力を飼いならすのに必要な政治家の資質を3つ挙げている。

 

政治家にとって重要な3つの資質とは?

  1. 情熱
  2. 責任感
  3. 判断力

情熱が責任感を生み、現実をあるがままに見て判断する力があってはじめて政治家は仕事ができる。また良質な仕事をおこなうために「虚栄心」に気をつけろと説く。虚栄心のない人間はいないが、政治家は権力を求めざるをえないので、何にために権力を求めるのか自問自答できる人間でなければならない。

こうみていくとヴェーバーの政治家の条件はとても厳しい。そして最後にこう言い切っている。

可測・不可測の一切の結果に対する責任を一身に引き受け、道徳的に挫けない人間、政治の倫理がしょせん悪をなす倫理であることを痛切に感じながら、「それにもかかわらず!」と言い切る自信のある人間だけが、政治への「天職」をもつ。

 

最後に

政治はそもそも権力を手段として追い求めなければならない。権力は暴力なのだから倫理的に美しくはない。だから手が汚れることを嫌う宗教人のような人物には政治はできない。泥だろうとつかみとり、虚栄心を抑え、情熱と責任感を持ち。冷静に判断し、権力を手段として飼いならせるような人物が政治家としてふさわしい。

こんなハイスペックな人物は政界だけでなく他の業界でもなかなかいないものだろう。とはいえ政治は権力と切り離せない関係なので、一人でも多くの優秀な人材が政界にいくことに期待したい。もちろん本書を読んだ上で。

正直な話、古典はとっつきにくい。特に岩波文庫は苦手意識をもっている人は少なくない。そんな古典や岩波文庫に苦手意識がある人に朗報だ。本書はたったの100ページほどなので、古典に挑戦してみたいという人には挫折せずに読めるちょうどよい一冊だと思う。

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おくでぃ

▶︎ 数千冊の本に埋もれてる積読家 ▶︎ 古今東西の歴史が好き ▶︎ まれに読書会主催 ▶︎ 餃子が好き ▶︎ HONZのレビュアーになるのが夢

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