海賊=人類共通の敵?
古来より人々は海賊に悩まされてきた。広大な海域を陸上ほどの治安を担保できる存在はいない。帝国の目の届かぬ海域で、船を襲い、沿岸都市を襲撃し、殺す・拉致・強奪なんでもやるのが海賊である。
だが、現代社会では海賊を主人公とした作品が溢れているではないか。ジョニー・デップもモンキー・D・ルフィも愛される存在であるがなぜなのだろうか。そこで著者は海賊の歴史を辿り、英雄的存在な海賊の一面も見せてくれる。
最初の海賊
歴史の父と呼ばれたヘロドトスの本の中で、最初の海賊が出てくる。サモス島の支配者ポリュクラテスこそ古代ギリシアの海賊王である。100隻以上のガレー船を擁したポリュクラテスの船団はエーゲ海の覇権を確立した。彼の言葉が残されておる。
友人に感謝されるには何も奪わずにおくよりも、奪っておいてそれを返してやる方がよいのだ。
なんということでしょう。ジャイアニズムは古代ギリシアをも席巻したようである。いかにも海賊らしい。そんな彼をヘロドトスはこう評している。
海上制覇を企てた最初のギリシア人として「高邁な志」を持ち、ギリシアの独裁者中、その気宇の壮大なる点においてポリュクラテスに比肩しうるものは一人だにない
海賊王に対して寛容なヘロドトス。実はギリシア世界では、力によって相手を圧倒し掠奪を行うことは、力を持つ者(神)のみが行いうる行為として、英雄たちにとっては誇らしい行為として見られていた。
しかしローマ時代になると海賊への評価は一転。ついにはローマ最大の知識人キケロは海賊を「人類共通の敵」とまで断定している。
海賊VSポンペイウス
キリキア海賊によってローマの海こと地中海は荒らされていた。ローマ最大の英雄カエサルすら幼少期に海賊によって囚えられているほど、珍しくないことだったのだろう。小さな問題ならともかく海賊たちはローマにとって悩みのタネとなった。
それはアフリカからの穀物輸送船が狙われたからだ。ローマ市民には「パンとサーカス」を提供して平和をつくっていたローマにとって、パンの供給を邪魔する海賊を放置することは出来なかった。
そこで派遣されたのがアレクサンドロス大王に匹敵すると言われたポンペイウスである。運悪く、ローマ最強の男がやってきたので海賊たちはどうすることもできない。
ただし、ポンペイウスは投稿する海賊に寛容で、ポンペイウスの海軍になったり、内陸地に土地をもらって移住したりと面倒を見てもらうこととなる。
ローマ最後の海賊
ポンペイウスの活躍もあり地中海は再び「我らが海(マーレ・ノストルム)」となった。偉大なポンペイウスだったが、運命は残酷な相手を用意した。カエサルである。同じ時代に送り込むなんて神はなんと残酷なのだろう。
両雄並び立たず。カエサルはポンペイウスを倒し、そんなカエサルも暗殺され、時代はカエサルの後継者であるオクタウィアヌスと部下であるアントニウスとの覇権争いが起きる。両者の闘いに注目が行きがちだが、最後までオクタウィアヌスに抵抗する勢力があった。
それがポンペイウスの遺児セクストゥス・ポンペイウスだ。彼の下に集ったのはかつてポンペイウスに反抗したキリキア海賊たちであった。ポンペイウスの御恩に報いるために、ゲリラ作戦でローマ兵と戦ったのだ。
地中海の海賊を掃討したローマの英雄の息子が、海賊行為でローマに抵抗したというのは、なんとも歴史の皮肉である。
最後まで抵抗するもひとりまたひとりと海賊は倒れていき、セクストゥス・ポンペイウスもミレトスにて処刑された。かの地は、かつてカエサルがキリキア海賊を磔にした場所であり、この場での処刑をもって、ローマの海賊の時代は終わりを迎えたのだ。
最後に
まだまだ魅力的な海賊は歴史上たくさんいる。特に大航海時代以降、海上貿易は更に加速し、その分、海賊たちの脅威も増していく。大英帝国の基礎をつくったのは間違いなく海賊であり、その影響は計り知れない。
海賊の歴史を通じて、海賊たちの魅力の謎に迫ってきたが、著者は最後にこう締めている。
人間の管理がますます進む現代である。本来的に人間が自由を求める存在である以上、われわれにとって、海賊は、反逆や解放、自由を想起させる存在としてこれからも生き続け、海賊の歴史も繰り返し読み継がれていくことになるだろう。
おすすめ本
↑今回、紹介した本
↑歴史上、海賊のおかげで最も繁栄したのは大英帝国だろう