あれ?最近、服買ってなくね?
「そういえば最近服を買っていない」「服はユニクロでいい」こういう友人が多い。他に漏れず、私自身も昔はブランド服に身を包んでいい気分に浸っていたが、いまやユニクロでいいと思っている。これは進化なのか退化なのかは周りに判断をあおぐとして、ほしい服がなくなってしまったのは気のせいだろうか。それとも業界の問題か。事実、アパレル業界は厳しい状況に追い込まれている。
オンワード、ワールド、TSIホールディングス、三陽商会の大手アパレル4社の2015年度の合計売上高は約8000億円。2014年の8700億円と比べて、1割近く減少している。純利益に至っては、2014年と比較してほぼ半減。
想像以上に急速に衰退している。二人三脚で成長してきた百貨店も、売上の3割を依存している主力商品であるアパレルの不振で冬の時代をむかえている。これまで爆買の特需で覆い隠されていた危機が表面化し、不採算店舗はどんどん閉店を発表する光景はもはや珍しくない。
はたしてアパレル業界に復活の兆しはあるのだろうか。本書では、まずは衰退の原因を探るために「川上」「川中」「川下」の当事者への取材を行っていく。スタート地点は”アパレルの墓場”と呼ばれる西成区にある倉庫からだ。
アパレルの墓場
洋服をつくってから消費者まで届くまでの流れをサプライチェーンと呼ぶ。その過程で予想よりも売れなかった品物は不良在庫として余ることとなる。はじめては店舗でのセール。それでも余ればファミリーセール。さらに残ればアウトレットモールへと移動する度に値段を下げながら販売され続けるのだ。それでも売れなければ・・・アパレルの墓場(バッタ屋)へと送られる。
在庫が余ること自体はどの産業でも起こりうる普通の出来事だが、他の業界と違う点がひとつある。それは、大量の売れ残りを前提に販売価格を設定し、無駄な商品を作り過ぎているという点である。アパレルの市場規模は約20年で3分の2まで縮小したが不思議なことに商品の供給量は倍増している。
アパレル業界の集団自殺
アパレルメーカーは魔法の杖に手を伸ばした。きっかけはバブル崩壊で消費者の紐が固くなり、黄金時代が終焉をむかえたことにある。苦戦する大手アパレルメーカーや百貨店を尻目に急上昇していくのが「ユニクロ」や「ファストファッション」だった。ユニクロの強みはSPA(スペシャリティー(S)・ストア・リテーラー・オブ・プライベート(P)・レーベル・アパレル(A))にある。
メーカー主導ではなく消費者に近い売場主導でニーズにいち早く応える体制が特徴だ。ユニクロの成功をみていた川上メーカーは製造拠点を海外に移すだけで生産コストを削減でき、大量生産によるスケールメリットができると考えた。それで大量の商品を海外で製造し、国内の様々な場所に供給し、バラ撒くビジネスモデルに舵を切った。不良在庫も抱えるが目先の売上をつくれるので、なかなか抜け出せなかった。
そして誰もいなくなった
メーカーは企画力や創造性を失い、中国のOEMメーカーに「何でもいいから、売れ筋商品をつくってくれ」とお願いするだけ。製造拠点が海外に移り、高い技術力をもつ国内の縫製職人は仕事を失った。魅力のない商品を大量生産大量販売した結果、消費者は「買いたい服がない」と思うようになる。
大丸松坂屋百貨店社長の告白
大丸松坂屋百貨店社長へのインタビューで印象的なセリフが目をひいた。
百貨店の売上高に占める洋服の割合はものすごく大きい。だから関係者は「そう簡単に崩壊しないだろう」という仮説を持っていました。ただ、何年か先を見た時にリスクがあるのは、少し未来を読める人、大局的に物事を見る人なら分かっていたと思います。我々はそのど真ん中にいたので、そう思いたくなかった。
カエサルは「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」という名言を残しているが、まさに見たいと欲する現実を見続けたことが社長のセリフから想像できる。
第2章ではアパレル黄金時代とその崩壊の歴史を描き、より詳細にアパレル衰退の要因を探っていく。
アパレル産業に未来はないのか?
この問いに対して、著者はハッキリと「NO」と答える。なぜなら闇だけでなく光もあるからだ。ここまで暗い話ばかりだったが、本書では、衰退する業界の中でも右肩上がりに躍進している企業をピックアップして紹介してくれている。皆、服を愛して、業界を変えようとしている熱意ある人ばかりだ。希望の火はまだ消えてはいない。